月読|つきよみ 第三篇

第三篇|月華|つきのはな
共時
偶然は、いつから意味を持ちはじめるのでしょう。
たまたま耳にした言葉。
ふと目に入った数字。
なぜか気になった場所。
考えていたことと、まるで呼応するように起こる出来事。
ひとつだけなら、きっと偶然として通り過ぎてしまいます。
けれど、
いくつかの出来事が不思議なほど重なったとき、
私たちはそこにひとつの流れを感じることがあります。
第三曲「月華」に込めたものは、
共時。
第一篇「月輪」では、受け取ることについて綴りました。
感受。
第二篇「素月」では、心の中にある引っかかりやわだかまりをほどき、
本来の流れへ還っていくことについて。
浄化。
そして、その先に現れるのが、
共時。
なのだと思います。
なぜなら、
心の中が何かでいっぱいになっているとき、
私たちは目の前に現れている小さな兆しに気づくことができないからです。
答えを急いでいるとき。
何かを強く求めているとき。
自分の考えだけで世界を埋め尽くしてしまっているとき。
そこに何かが現れていても、
それを見るための余白がありません。
けれど、
ひとつ何かを手放す。
心の引っかかりがほどける。
静けさが戻る。
すると不思議なことに、
それまで何もなかったはずの場所に、小さなつながりが見え始めます。
偶然だった出来事と、
別の日に起きた出来事が、
どこかで静かに重なる。
ずっと前に聞いた言葉が、
今日になって突然意味を持ちはじめる。
自分の内側で考えていたことが、
まるで外側の世界から返事をされるように現れる。
出来事そのものは、以前から起きていたのかもしれません。
変わったのは、
世界ではなく、
それを受け取る側なのかもしれない。
共時性とは、
偶然を探し集めることではないと私は思っています。
何か特別な意味を無理につけることでもありません。
むしろ、
自分の内側が静かになったとき、
それまで別々だったものの間にある小さな関係へ気づくこと。
そして、
その一致をすぐに答えにせず、
ただ、
「何かが重なった」
という事実を静かに受け取ってみること。
それくらいが、ちょうどいいのかもしれません。
今日の月は、
新月を目前にしたとても細い月です。
光の大部分は姿を消し、
ほんのわずかな輪郭だけを残している。
けれど、
細い月には不思議な存在感があります。
満月のように空全体を照らすわけではありません。
注意して見なければ、見過ごしてしまうほどの光。
それでも、
一度その輪郭に気づくと、なぜか目を離せなくなる。
昔から、
あの細い月の姿には、
何かが始まる少し前に現れる小さな兆しのようなものを感じます。
大きな答えではない。
確信でもない。
ただ、
「こちらでいい」
とでも言うように、
暗い空の中へ置かれた一本の細い光。
共時性も、それに似ています。
世界が大きな声で答えを教えてくれるわけではありません。
むしろ、
そのほとんどはとても小さい。
偶然すれ違ったもの。
繰り返し現れる言葉。
妙に心へ残る出来事。
予定していなかった一致。
そこに意味があるのかどうかは、その瞬間には分かりません。
だからこそ、
急いで意味を決めなくてもいい。
ただ、
心に引っかかったものを覚えておく。
そして少し先まで歩いてから振り返ってみる。
すると、
点だと思っていたものが、
いつの間にかひとつの線になっていることがあります。
月輪|つきのわという作品も、
最初からすべての意味が見えていたわけではありません。
ひとつを見つけ、
そこから次のひとつへ進み、
振り返ったとき、
離れていたものが思いがけず重なっていることに気づく。
その繰り返しでした。
だから、
共時性は未来を予言するものというより、
自分が歩いている道の輪郭を、あとから照らしてくれるもの
なのかもしれません。
それを信じなければならないわけではありません。
すべての偶然に意味を与える必要もありません。
ただ、
なぜか心に残ったものをすぐに捨てない。
その小さな感覚を、ほんの少し大切にしてみる。
その先で別の出来事が重なったとき、
初めて、
偶然は意味を帯びて響きはじめます。
月華。
月の光が、
花のように静かにひらくこと。
光はずっとそこにあった。
けれど、
受け取る準備ができたとき、
初めてその美しさに気づく。
感受し、
浄化し、
余白が生まれたその場所へ、
小さな一致が舞い降りる。
そして、
その一致を追いかけるのではなく、
静かに見つめていると、
意識はさらに深い場所へ向かっていきます。
次の月は、
朧月|瞑想。
見えていた輪郭さえも手放し、
新月の静けさへ。
月読は、
もうすぐもっとも暗い場所へ入ります。
03|月華|つきのはな
共時
静けさの中で、離れていた出来事が不思議なほど重なりはじめる。
偶然という名の小さな光が、まだ見えない流れを映し出してゆく。
「月輪を迎える」
九つの響き
どこから聴いてもいい。ひとつだけでもいい。
九つの月、その響きを。
月輪|つきのわ「九つの響き|全曲プレビュー」



コメント