月読|つきよみ 第七篇

第七篇|月宮|つきのみや
多幸
幸せは、
ひとつの大きなものなのでしょうか。
願っていたことが叶うこと。
何かを手に入れること。
人生が大きく変わること。
私たちは、ときに、
そうした特別な出来事の中に幸せを探します。
けれど、
本当に私たちを満たしているものは、
もっと小さく、
もっと静かで、
ひとつではないのかもしれません。
第七曲「月宮」に込めたものは、
多幸。
たくさんの幸せ。
けれどそれは、
大きな幸福がいくつも押し寄せてくるという意味ではありません。
むしろ、
今まで見過ごしていた小さな幸せに、
ひとつずつ気づいていくこと。
その積み重なりの中で、
いつの間にか、
「すでに満たされていた」
と気づくこと。
そんな感覚です。
前回の「孤月」では、
内観
について綴りました。
外側に答えを探すのではなく、
自分の内側へ戻る。
光だけでなく、
影も含めて、
今の自分をそのまま見つめる。
すると、
不思議なことが起こります。
足りないと思っていたものよりも、
すでにあるものの方が、
少しずつ見えるようになる。
誰かの言葉。
いつもの景色。
好きな音。
眠る場所。
今日も動いている身体。
ふと笑えた瞬間。
何気なく交わした会話。
大切な人がいること。
ひとりになれる時間。
何かをつくれること。
何かを感じられること。
どれも、
あまりに日常の中にあるため、
普段は幸せとして数えないものばかりです。
けれど、
ひとつずつ拾っていくと、
私たちの周りには、
思っている以上に多くのものがある。
多幸とは、
そのことに気づく感覚なのかもしれません。
今日は、
秋分の日。
季節は、
またひとつの境目を迎えています。
こうした節目には、
さまざまな意味が語られます。
大きな変化。
転換。
新しい始まり。
そうした言葉に、
心が惹かれることもあるかもしれません。
けれど、
変化はいつも、
大きな音を立ててやって来るとは限りません。
昨日まで当たり前だったものが、
今日は少し違って見える。
それだけでも、
人は変わり始めています。
何かを手に入れたから幸せになるのではなく、
今ここにあるものを、
幸せとして受け取れるようになる。
その変化は、
外から見れば、
ほとんど分からないかもしれません。
けれど、
自分の内側では、
世界そのものが少し変わって見えます。
「月宮」。
月の中にある、
静かな宮。
もしそんな場所があるなら、
そこには、
何か豪華なものが並んでいるのではなく、
ただ、
満ちた静けさがあるような気がします。
足りないものを数える声が止まり、
もっと欲しいという思いも静まり、
ただ、
ここにある。
それだけで満ちている場所。
私たちは、
幸せを遠くへ置きすぎてしまうことがあります。
次の目標。
次の成功。
次の出会い。
次の答え。
そこへ辿り着けば、
きっと満たされる。
そう思って進み続ける。
もちろん、
前へ進むことは大切です。
けれど、
どこかへ向かい続けながらも、
一度、
足元を見てみる。
すると、
ずっと探していたものの一部が、
すでにそこにあることがあります。
多幸とは、
「何も望まないこと」ではありません。
新しいものを求めることをやめることでもありません。
むしろ、
今あるものを受け取りながら、その上で次へ進めること。
不足から進むのではなく、
満たされた場所から進む。
その違いは、
とても大きいのだと思います。
月も、
新月からここまで、
一日ずつ光を増してきました。
突然、
満ちたわけではありません。
ほんの小さな光が、
毎日少しずつ重なり、
今、
満月へ近づいています。
幸せも、
それに似ています。
ひとつ。
またひとつ。
小さなものが重なる。
そしてある瞬間、
振り返ったとき、
「こんなにもあった」
と気づく。
幸せは、
ひとつではない。
だから、
多幸。
大きなひとつを待つのではなく、
すでに届いているいくつもの小さな光を、
受け取ってみる。
その一つひとつが、
いつか、
自分の内側にひとつの月をつくるのかもしれません。
今日という節目に、
何かを大きく変えなくてもいい。
何かを決断しなくてもいい。
ただ、
一度だけ、
今ここにあるものを見渡してみる。
そして、
小さくても、
「これは幸せだ」
と思えるものを、
ひとつ見つける。
もうひとつ。
またひとつ。
それだけで、
世界は少しずつ満ち始めます。
感受し、
浄化し、
共時を受け取り、
静けさへ沈み、
幸運の兆しに気づき、
自分自身を見つめる。
そして今日、
その内側に、
すでに存在していたものを受け取る。
多幸。
月読は、
満月へ向かって、
さらに光を増していきます。
次の月は、
霽月|せいげつ。
満ちていく光の中で、
今度は、
曇りが晴れるように、
何が本当に大切なのかが少しずつ見えてくる。
明晰。
月読は、
いよいよ最後の光へ近づいていきます。
07|月宮|つきのみや
多幸
満ちてゆく光の中で、すでにそこにあった小さな幸せに気づいてゆく。
ひとつ、またひとつ。
その光が重なるほどに、心は静かに満たされてゆく。
「月輪を迎える」
九つの響き
どこから聴いてもいい。ひとつだけでもいい。
今日は、
すでにあるものを受け取るように。
月輪|つきのわ「九つの響き|全曲プレビュー」



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